地方にレストランを作ろう

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地方にレストランを作ろう(その5)

本格イタリアン『レストランヴァルナ』、ついにオープン!

2008年9月18日11時半、静岡県富士宮市に本格的なイタリアンの店『レストランヴァルナ』がオープンした。「ヴァルナ」とはインド神話における水の神様にちなんだ名前であり、富士山の湧水に育まれたこの地の素晴らしい食材を一流の調理技術で提供したいという意味が込められている。眞貝シェフのもとには、マネージャ兼ソムリエの高瀬泰貴とパティシエの杉本都香咲が合流し、スタッフも揃った。この日は朝からあいにくの雨だったがランチタイムはすでに予約で満席。昼前からお客様が一人また一人と店内に入り始め、厨房のなかはまるで戦場のような忙しさとなった。ついに地方活性化レストランが始動したのだ。

               

                開店当日!                    開店当日の店内の様子

このグランドオープンに先立つ9月5日、レストランのプレオープンを祝うセレモニーが開催された。15時、長屋門の前に富士宮市の小室市長、(株)富士山の簑社長、Food Japan Network(FJN)の代表幹事である富士通株式会社の秋草相談役と全国農業協同組合連合会の加藤専務、早稲田大学の榊原教授と高橋教授が参列し、小室市長の挨拶の後、一同揃ってテープカットが行われた。  16時からは店内で関係者による食事会が催された。明るい店内は大きなガラスによって中庭の空間と一体化し、30席とは思えない空間の広がりを演出している。さすがは千葉准教授の設計である。ひときわ華やかさを際立たせている豪華な花は「郷土料理の宿さんなみ」さんから贈られたものだ。温かい心遣いにスタッフ一同も大いに感動した。この外界とはまるで別世界の雰囲気のなかで、眞貝シェフが各列席者へ念入りに準備を重ねた料理を振舞った。各界の食通を代表するFJNの面々からは絶賛の声があがり、フレンチ界の重鎮である北岡シェフから眞貝シェフへ最大の賛辞が贈られた。

                   
                  テープカット後の長屋門前での記念撮影      
          小室市長(前列右から2人目)、簑社長(前列一番右)とFJN関係者

          
            関係者による食事会の様子  

  富士山の地下水を使ったワインセラーと高級なワインの品揃え、ライヨールナイフやジノリの最新の食器類など、レストランヴァルナには多くの話題性がある。

               

しかし、レストランヴァルナの特徴は何と言っても、多くの主体が連携して実現した「地方活性化レストラン」であるということだ。地方活性化レストランは次のように特徴づけられる。
(1)地元の生産者や食材関係者などを結びつけ、「食」を中心として地域全体の産業の活性化を図るための核として位置づけられていること。
(2)地域の価値ある食材を発掘・開発し、地域の人々に愛されるとともに、感度の高い都市の人々をも引きつける一流の料理・サービスを提供することを目指していること。
(3)行政、事業者、料理人、生産者、大学、メディア、地域住民など、地方活性化のために地域内外のあらゆる専門家や関係者が連携していること。

  実際に、FJN、シェフ、行政、事業主、設計者、施工者、メディアなど、実に多くの主体が関わりあってこのレストランが実現した。地域連携・官民連携という言葉がよく使われるが現実は「言うは易く行うは難し」である。事実、様々な壁にぶつかりながら乗り越え、やっとここまで来たというのが実感である。一人のリーダが権限を持って取り仕切れば、問題は少なくスムーズに事が運んだという批判があるかもしれない。しかし、ぶつかった問題を乗り越えることでお互いの慣習・感覚・常識の違いを実感し、自らの思い込みに「気づき」が与えられたのではないだろうか。多少の軋轢があったとしても、この「気づき」こそが新しいものを創り出す原動力となり、さらなる発展へとつながっていく。

   最近良く聞く「地産地消」や「農家(農村)レストラン」との違いをはっきりさせておきたい。地産といっても無条件に地元の食材を使うわけではない。シェフが吟味して納得した地元の食材のみを、一流の調理技術で地域の内外へアピールすることが目的である。納得できない食材については生産者に努力を求め、地元食材の魅力を引き立てるためには外部の食材も使う。そして地域の人々に消費してもらうことはもとより、地域の外部、都会から食にこだわりを持った人々を呼び込んで地方の素晴らしさをアピールすることを目的としている。  次に、経営者が農家(または生産関係者)であることにもこだわらない、地域のために貢献したいという意欲を持っている人物であることが条件である。さらに調理人は生産関係者ではなく、一流の技術を持った料理人でなくてはならない。生産者の意識を変えて一流の食材を開発していくためには、食通たちを引きつける一流の調理技術がどうしても必要となるのだ。

    

  このような本格的な店を経営していくことが本当にできるのか、地元では不安の声もある。しかし、本サイトでも紹介したヴィッラ・アイーダ、オトワ・レストラン、さんなみ、ダ・サスィーノ、ル・ミュゼの例を見れば、地理的な環境などはものともせず本物の食通を引きつけていることがわかる。「本物の食は地方にあり」、良質な食材を育む素晴らしい地方の環境のなかでこそ、むしろ食の味わいが深まっていく。金さえ出せばどのような食材でも手に入るという都会では決して味わえない「本物の食」が地方にある。 今、地方イタリアンが脚光を浴びつつある。地方独自の素材や伝統を活かすことがイタリアンの真髄であり、一流の腕を持ったシェフたちがそのコンセプトを実現しようと地方へ進出し始めている。ヴィッラ・アイーダの小林寛司さんやダ・サスィーノの笹森通影さんなどはその際立った例である。レストランヴァルナも彼らに学びながら、地方の魅力を発信し、地方の活性化に貢献し、「イタリアン」を実践していくことだろう。

 レストランヴァルナは「食によるまちづくり」に向けた第一歩でしかない。レストランヴァルナが一つの刺激となって、富士宮市地域の食産業や第一次産業が活気づいていくことを期待したい。やがて観光への投資も活発化し、地域経済全体が上昇気流に乗り、富士山と本物の食を求めて日本だけでなく世界中から人々がやってくることだろう。

(榎並記)

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